OptoEleMechの日記

主に時計、電卓、カメラの話題

グランドセイコー 60周年 ブランドブック

僕はGrand Seikoは持っていないのですが、今年、60周年記念として発行された非売品のブランドブックは面白そうだったのでオークションで手に入れてありました。

時計の歴史や技術を知るにはこのような本は非常に役立ちます。

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Japanese craftmanship Watchmaking the Grand Seiko way

ケースや最初のページには「Japanese craftmanship Watchmaking the Grand Seiko way」と英語で書いてあるので、中も英語で書いてあるように思えますが、文章は日本語です。英語版は見たことがありません・・・。

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最初のページ

技術紹介がしばらく続きます。グランドセイコーと言えば、必ず出てくる「ザラツ研磨」ですが、今まで光学レンズの分野で25年ほど働いていますが、研磨技術として一般的な名称ではないことは確かだと思います。何か特殊な技術として大々的に宣伝して定着させようとしたのでしょうか?元々はスイスの研磨機械メーカーのザラツ兄弟社(GEBR.ZALLAZ)の機械を用いて研磨していたところから、そう呼ばれているみたいです。社内だけで用いられてきた呼び方を表舞台に登場させたのでしょうね。

昔、複写機でコピーすることを「ゼロックスする」と言う人たちが居たような感じでしょうか?「ホチキスしておいて」とか・・・。

他の会社も当然同等のことを行っていると思いますが、ザラツ研磨と呼んでいないだけだと思います。一般的には超鏡面加工はミラーポリッシュやブラックポリッシュと呼ばれたりしていることが多いと思います。

時計の雑誌や、Webの記事なんかでも良く取り上げられますが、個人的には、わざわざ大々的に解説する程のことではないと思っています。そんなに特殊なんでしょうか?

これは、通常、鏡面加工で、しっかり面を出さないといけないときの一般的な技術で、精密加工分野ではラップ加工(仕上げ)と呼ばれるものに近いと思います。ステンレスレベルの硬さであれば、最初はエンドミルによるミリング(フライス)加工で形状を作成し、次に砥石による平面研削、そして研磨剤によるラップ(LAP)加工、その後に仕上げ研磨(ポリッシュ)となります。セラミックスのように固い材料は研削からスタートせざるを得ません。

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研磨技術の解説

このあたりは、本当の技術本ではないので、どうしても誇張というのか、少し大げさな書き方になっています。

長年、技術開発をしてきた立場から言えば、手仕事でやるのが全てにおいて良いというわけではないし、その作業ができる人が社内に数名しか居ないということが、会社的に誇れることでもないんだと思っています。

先日、紹介したヴァシュロン・コンスタンタンの本とは、そのあたりのスタンスが違っているようです。ヴァシュロンの本には最新の加工機を用いれば、手作業よりも精度が良い完璧なものができるとハッキリと書いてあります。手作業による装飾によって機械加工の痕跡を消し、芸術品に近い存在となるのは、高級時計だけに与えられるものだと。そして、職人は様々な技術を身につけていかなければならないと・・・。

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現行モデルの解説

そして、グランドセイコーの歴史が紹介されています。

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歴史

ということで、非常に興味深く読むことができましたが、どうしても「グランドセイコー」という微妙なブランド名からして、本当の高級品になり切れていない、もどかしさを感じました。

本当はSEIKOブランドの価値をどんどん高めていって、その下のALBA等が現在のSEIKOの立ち位置になった方が幸せだったのかもしれません。

これって、トヨタの上にレクサスという高級ブランドを作ったのと似た感じがします。なんか作られた高級ブランド感が出てしまっているように思います。

ROLEXは、時計の質を上げ、高級化へ移行し、元々廉価版ブランドだったTUDORをひと昔前のROLEXの立ち位置にまで成長させました。やはりこちらの方が正統派な気がしますね。